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土居中事件

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平成24年(あ)第777号

 

上 告 趣 意 書

 

2012(平成24)年6月29日

 

最高裁判所    御中

           

                           被告人      河 村 卓 哉

                           主任弁護人弁護士 水 口   晃

                           弁護人弁護士   臼 井   滿

                           弁護人弁護士   常 田   学

 

 

             

 

上記被告人に対する傷害・名誉毀損被告事件について,上告の趣意は下記のとおりである。

 

 

 

 

第1 原判決は,憲法37条第1項に違反している。

   傷害の公訴事実は,「石川周治に対し,同人の左頬部を右肘で1回肘打ちする暴行を加え,よって,同人に全治3週間を要する左顔面打撲,頚部捻挫の傷害を負わせ」ということである。

   原判決の裁判官長谷川憲一,同赤坂宏一及び同渡邉史朗は,被告人の控訴趣意が「被告人の左肘の内側が石川周治の左ほほ付近に当たったことはあるが,それほど強くは当たっておらず」とか(原判決書2頁),「所論は,被害者の左ほほ付近に自分の肘が当たったことは認めるものの,暴行の故意がなく,」(原判決書4頁)として,被告人が石川周治の左ほほに当たったことを認めていることにしている。

しかし,このようなことはないし,記録のどこにもない。被告人は,一貫して,石川周治の左ほほを肘打ちしていないと無罪を主張してきたのである。被告人が石川周治の左ほほに当たったことを認めたことは,一度もない。

本件のトラブルの際に,左ほほへの肘打ちがあるのか,全治3週間の左顔面打撲や頚部捻挫があるのかが,本件の最大の争点である。

しかるに,この3名の裁判官は,被告人が左ほほに当たったことを認めていることにして,判決をしたのであるが,このようなミスは考えられないことであって,信じ難い判決である。刑事や民事を問わず,裁判を行う裁判官として,致命的なミスであり,あってはならないミスである。

憲法37条第1項において,被告人は公平な裁判所の裁判を受ける権利が保障されているが,この3名の裁判官による原判決は,公平な裁判所の裁判でないことは明らかであり,憲法に違反する。

また,3名の裁判官は,「被告人の左肘の内側が石川周治の左ほほ付近に当たったことはあるが」と記載しているが,一体どのような態勢を考えているのだろうか。正面に対峙している被告人の左肘の内側が相手の左ほほに当たることは,物理的にありえない。単に誤解していたといえるミスではなく,3名の裁判官がなにも考えていなかったことが示すものである。

さらに,3名の裁判官は,判決後に報道機関に対して,判決要旨を交付しているが,その判決要旨には,「被告人の左肘の内側が石川周治のあご付近に当たったことはあるが,それほど強くは当たっておらず」とか(要旨1頁から2頁),「所論は,被害者の左あご付近に自分の肘が当たったことは認めるものの,暴行の故意がなく,」(要旨3頁)として,あごと記載している(別紙1)。つまり,3名の裁判官は,判決要旨と判決書を作成するにあたり,あごからほほに変えたか,あるいは,ほほからあごに変えたことを意識しているわけであるが,その違いの重要性を理解できていないのである。あごか,ほほかの違いがどちらでもいいことではない。また,被告人は被害者のあご付近に当たったことを認めていないのであり,これも誤っている。

被告人は,正面に対峙している石川に対して,両手を左から右へ払って,壁を作るというイメージで払って右へ出ようとした,そのときに,左腕の肘の内側が石川に当たった,あごか,ほっぺたか,首かである,当たったのは1回だけであると供述している(第1審の被告人供述調書101項乃至104項)。被告人が当たったと認めているのは,石川の右側である。当日の自宅での夫婦の会話でも,石川が「ここはどうしてくれるん言うて,反対側押さえよんよ」と石川が当たった側ではなくて,反対側(石川の供述する左側のこと)を押さえたことを述べている(第1審判決書,別紙2,3頁)。

以上のとおり,原判決の裁判官である長谷川憲一,同赤坂宏一及び同渡邉史朗の3名が,石川の左ほほを肘打ちしていないと無罪を主張している本件において,被告人が左ほほに当たったことを認めていることにして判決したことは,憲法に違反する。

 

第2 傷害罪については無罪であるから,原判決には,判決に及ぼす重大な事実誤認が存在するので,刑事訴訟法第411条第3号によって破棄を求める。

 1 原判決の判決理由が,おかしなことになっていること

   原判決は,第1のとおり,被告人が石川周治の左ほほ付近に当たったことを認めているという致命的なミスをしていることから,その判決理由もおかしなことになっている。

原判決は,「被告人の肘が被害者の左ほほ付近に当たった強さについて」を判断するというのである(原判決書2頁)。

つまり,左ほほに当たったか,肘打ちがあったのかを判断するのではなくて,当たったことを前提にして(原判決にとっては被告人が認めているからである),その強さを判断するという,おかしなことになってしまっている。

   このような原判決は,直ちに,破棄するべきである。

 

 2 原判決が,石川らの供述の信用性を誤っていること

   原判決が,被告人が石川周治の左ほほ付近に当たったことを認めているという致命的なミスをし,「当たった強さについて」を判断するためであることから,極めて安易に,原判決は,石川周治,伊藤貴仁及び本宮久忠の供述に不自然,不合理な点はないとか,反対尋問にも動揺しておらないとして,石川らの供述の信用性を認めてしまっている(原判決書2頁,3頁)。

しかし,例え被害者と名乗っている者であっても,その供述の信用性を慎重に検討しなければならないことは,裁判の鉄則である。

特に,本件では,石川周治,伊藤貴仁及び本宮久忠は,土居中学校において,被告人に対し,嫌がらせを繰り返してきた幹部教師ら(男性職員更衣室で昼食をしながら密談するため,いわゆる「ランチルーム」のメンバーといわれている)であるから(石川尋問調書509項以下),なおさらのことである。

石川らの供述する暴行の態様は,肘打ちであり,激しい衝撃があったとするものであるが,石川の左ほほの状態は,なんの変化もなく(星田尋問調書96項),「ごくごくわずかな腫れ」(安藤尋問調書15項)であって,暴行内容と傷害内容が整合していない。

ところが,原判決は,「被害者供述中の暴行内容と傷害内容が対応しない等その信用性をるる論難するが,その指摘するところは上記信用性の判断を左右するものではない。」とするだけである(判決書4頁)。

これでは,石川らの供述する暴行内容と石川の左ほほの傷害内容が対応するのか,しないのかの説明に全くなっていない。

また,原判決は,石川らの供述内容と異なる現場録音の音声データについて,「加除訂正されたもの」と断定した(原判決書5頁)。

しかし,原判決は,編集痕がないとする鑑定意見書を採用せずに,第1審以後に新しい証拠がなく,第1審判決でも「一部の録音部分が削除等された可能性は否めないものの」と断定できなかったにもかかわらず(第1審判決書11頁),裁判官の独自の見解をもって加除訂正されたと断定し,石川らの供述の信用性を認めているのである(原判決書5頁)。

   以下,石川周治,伊藤貴仁及び本宮久忠の供述する暴行の態様が,客観的な事実(左ほほの状態や音声データ)に整合せず,信用できないことを詳論する。

 

3 石川周治,伊藤貴仁及び本宮久忠の供述する暴行の態様とは,激しい暴行であること

   石川周治,伊藤貴仁及び本宮久忠の供述する暴行の態様を確認しておくと,次のとおりである。

   石川の供述は,「左ほほに激しい衝撃を受け,痛みを感じて,首がねじれた。」(原判決書2頁),「左頬に激しい衝撃を受け,痛みを感じて首がねじれ,顔が右下を向いた。目の前が真っ白になった。・・・殴られた直後は,その衝撃で意識がぼうっとしていた。」である(第1審判決書11頁,12頁)。

   また,石川の供述は,左のほほが腫れた,目の下の部分が腫れた,鼻と耳のちょうど真ん中ぐらいである,真っ赤になったである(石川尋問調書276項,277項,840項以下)。

なお,石川は,ほほの状態を供述しており,あごではない。第1で述べたとおり,原判決があごとほほのどちらでもいいと考えていることは全くの誤りである。

石川の供述は,幹部教師らの一人である近藤の説明として,「ものすごい音がしたというふうなことを言ってた」である(同555項)。

伊藤の供述は,「被告人の右肘が肩上まで上がり,その肘を右斜め上から左斜め下に振り下ろすように動かして,石川教諭の左の頬を肘打ちで殴り,石川教諭の顔が右下にぶれた。」である(第1審判決書17頁)。

本宮の供述は,「石川教諭の身体越しに被告人の右手の肘が上に上がるのが見えたと思ったら,それを振り下ろし,その肘が石川教諭の左顎付近に当たり,石川教諭の顎が右にひねられるようになった。」である(第1審判決書21頁)。

つまり,3名の供述する暴行の態様とは,被告人が右肘を肩の上に挙げ,それを振り下ろし,被告人の右肘が石川の左ほほに当たり,石川の首がねじれて,石川の顔が右下へ向いた,ものすごい音がしたということである。

もし本当に,このような暴行を受けたとすれば,石川がいうとおり,目の前が真っ白になり,殴られた直後は,その衝撃で意識がぼうっとしたであろう。また,暴行を受けた左ほほは,左ほほの目の下が腫れ,真っ赤になるなどの打撲の痕が明確に生じるであろう。しかし,本件は,そのような状態にはなっていない。

 

 4 石川の左ほほの状態に変化がなく,極めて軽微であること

@ 星田が石川の口の中を見ているが,切れていたり,腫れがないこと

教護教諭である星田は,本件のトラブルの後で,その場所において,校長の指示で石川の口の中を確認しているが,石川の口の中は切れていなかった。石川が腫れとると聞くので,わからないと答えている(星田尋問調書96項)。

翌日に,星田が湿布をしようかと勧めたが,石川は「冷たいけん,湿布は要りません」と言っている(同104項)。

石川も,翌日星田に見てもらい,星田からぽっちゃりしているから分からんと言われたかの質問に対し,「もしそう言われるんだったら,そうかもしれません。」と認めている(石川尋問調書659項)。

A 現場臨場報告書(甲62)に怪我なしとあること

警察官による平成20年1月16日付けの現場臨場報告書では,「顔部にヒジによる打撲を受けたものである。」としているが,「被害者に怪我はなく,」とあり,「事件性なし」で処理されている。罪名も,「傷害」ではなく,「その他(もめごと)」である。

なお,現場臨場報告書が「事件性なし」を二重線で抹消されて(訂正印がない)「保留」に変更されているが,第1審の公判において,現場に臨場した警察官は,自分はわからない,「もし訂正していれば,(作成者の)訂正印が押されている」と証言している(井原尋問調書96項,97項)。公文書が変造されたといわざるをえない。

B 安藤医師のカルテ(甲43)

    平成20年1月16日のカルテには,「左頬部にごく軽度の腫脹」である。

C 安藤医師の供述

    安藤医師の供述は,カルテの「ごく軽度の腫脹」について,「左右差があって,左側のほうが腫れがあるということ,ごくごく少しだけの腫れがあったということです」とする(安藤尋問調書15項)。

冷やすという指示をしたが,病院では実際に冷やすことをしていない(同113項以下)。

さらに「次,いつ,それ,また再診しなさいという指示はしていないと思います。」(同125項)。

なお,首については,レントゲンもとらず,なんの処置もしていない(同23項)

  D 以上のとおり,石川の左ほほの状態は,口の中が切れていないし,安藤医師も,左右差があって,左がごくごく少しだけの腫れがあるとするにすぎず,なにも処置をしていない。翌日にも明らかな腫れがない。

このような石川の左ほほの状態が,石川らの供述する暴行の態様と整合しないことは明らかであるから,石川ら3名の供述は信用できない。

 

 5 石川らの供述が供述現場録音の音声データに反すること

  @ 本件では,現場録音の音声データがあること

    本件のトラブルの状況については,被告人のボイスレコーダーに音声が録音されていた。

また,自宅においても,被告人夫婦の会話などが録音されていた。原判決は,自宅の会話の録音については,「非常に信用性が高く」と判断している(原判決書4頁)。

    ところが,現場録音の音声データについては,前述のとおり,「加除訂正されたもの」と断定したのであるが(原判決書5頁),原判決の判断の根拠は,いずれも誤りである。

  A 原判決による独自の見解

原判決が,現場録音の音声データについて判断した根拠は,次のとおりである。

@ 音声のデジタルデータは,一定の知識及びソフト等があればパソコン等を使用して素人でも簡単に音声上痕跡を残さずに加除訂正することができ,

A 従前のアナログデータの改変の有無に関する音声鑑定ではその改変の有無を知ることは困難であることはよく知られているところである。

   B 加えて,録音されたやりとりの中には相当に不自然なものもあり,

C 実際に原審で証拠として取り調べられた録音音声を聞いてみても,被告人の一個の発言の中で口調が不自然に変化する部分があるなど,

元々の音声データから加除訂正されたものと認められる,とする(原判決書5頁)。

  B アナログデータとデジタルデータの音声鑑定は,変わらないこと

原判決は,「従前のアナログデータの改変の有無に関する音声鑑定ではその改変の有無を知ることは困難である」として,アナログデータの鑑定方法がデジタルデータには適用できないかのように認定する。

しかし,アナログデータであっても,デジタルデータであっても,音声を調べる鑑定方法は,変わらない。どちらのデータでも,削除してつなぎ合わせる加工をすれば,音の波に異常が生じるから,ノイズの発生などで加工が判明する。音声の鑑定は,そのノイズの有無などを調べるのである。

現場録音の音声データについては,中田宏鑑定人が,音声を鑑定した結果,編集痕がないと鑑定している。

    なお,原判決による音声データの鑑定方法に関する認定は,なにの証拠にも基づいていないし,このような誤った認定が「よく知られているところである。」わけがない。

    また,原判決は,デジタルデータの場合,「音声上痕跡を残さずに加除訂正することでき」るとするが,そのようなことはできない。音声とは,あくまでも音の波である。もし加除訂正すれば,その箇所で一旦音の波が切れるから,つなげた時に音の波の高さを一致させることが困難である。

    デジタルデータとアナログデータの違いとは,「音声上痕跡を残さず」ではなくて,テープを繋ぐといった外形上の痕跡を残さないということである。

  C 会話や口調では,音声データの加除訂正の判断ができないこと

    原判決は,「録音されたやりとりの中には相当に不自然なものもあり」とか,「被告人の一個の発言の中で口調が不自然に変化する部分がある」とするが,具体的な箇所を指摘しない。

その点はさておいても,音声の鑑定は,ノイズの発生の有無,ルームアコースティック(部屋の響き・残響)の変化の有無,FFT(ノイズや瞬間的な空白の検出・分析に使用するソフト)による連続性の検証によって行うのであり(別紙2),会話の内容や口調の変化をもとにするものではない。

    それでも,もし仮に,原判決が指摘するとおり,会話のやりとりや口調の変化があり,それによって加除訂正が判明するということであれば,当然,音声の鑑定においても,ノイズ等の異常が判明することになる。

    しかし,中田宏の鑑定では,加除訂正の編集痕がなかった。

  D そもそも,検察官が加除訂正を立証していないこと

第1審裁判でも,「被告人の供述に照らして不自然な点が窺われ,一部の録音部分が削除等された可能性は否めないものの」としているのである(第1審判決書11頁)。

第1審判決の判断は間違っているが,それでも,削除等された可能性を述べているから,控訴審において,編集痕がないとの鑑定書を証拠として申請したのである。

これに対して,検察官は,鑑定書の証拠申請に反対するが,加除訂正があることを立証しない。

もし仮に,原判決のように,会話のやりとりや口調の変化があって加除訂正が明らかであるとするなら,検察官が容易に加除訂正の立証ができるはずであるが,なにもしていない。

E 以上のとおり,現場録音データは,加除訂正がなく,信用できる客観的な証拠の一つである。

そこで,これをもとに石川らの供述の信用性を判断すべきであり,石川らの供述は信用できない。

F 現場録音の音声データによれば,石川らの供述が信用できないこと

  @ 殴られた直後の状況

石川の供述は「殴られた直後は,その衝撃で意識がぼうっとしていた」とするが,音声データでは普通に返答している。

現場録音の音声データは,第1審判決書の添付の別紙1に示されている。別紙1の2頁では,石川は,次のように発言している。

「何ちゃしてないって」,「当たってないや」,「よう言わい,そこやか当たってないって」,「いやいやいや,違うって、はいはい、入ろ入ろ」,「こっち入ろ入ろ」,「はいはい」,「もう駄目じゃわ,これいかんわ」,「うん」,「ほなごめんなさい」,「はい」

と発言している。

これは,被告人の発言に対してすぐさま返答し,通常の会話を続けているのであって,意識がぼうっとしていたことはない。

A 石川が被告人を押していたこと

石川らの供述は,次のとおり,石川が被告人を押していないとする。

石川の供述は,「私は,両手を斜め下に広げてハの字型にした格好で割って入りながら,被告人に,相談室に入って落ち着いて話そうやと言った。被告人は,私と向き合った状態で,『当たるな。』といいながら,私に胸から当たってくるような素振りをした。私が当たっていないと言うと,被告人は,『当たっただろうが,触るな。』といい,正面に向かい合った状態でこのようなやりとりが続いた。」である(第1審判決書11頁)

伊藤の供述は,「石川教諭は,左右の手をそれぞれ斜めに下げてハの字の状態で立ち,被告人に『保護者がいるので,相談室に行きましょう』などと言っていた。被告人は,首を上下,身体は前後,手を動かして,石川教諭に『寄るな,触るな。』,『今,触っただろうが』などと言っていた。石川教諭が被告人の身体を押したり,触ったりしていたことはないと思うが,被告人が動いていたので,当たったかもしれない。」である(第1審判決書17頁)

本宮の供述は,「石川教諭は,被告人に対し,左右の手を斜めに差し出す形で,ハの字の状態で平手を前に向けて立った状態であり,これに対して被告人は,上半身を前後に揺らしており,被告人の身体が石川教諭に当たっていた。」である(第1審判決書20頁)。

しかし,現場録音の音声データは,次のとおり,被告人の発言が録音されている。

「触るな」,「おい,触るなって,当たるな言よんよ」,「当たるな言よんよ,当たってきたのはお前だろが,こら」,「何を,当たってくるな,当たるな言よんよ,ええ,止めや」,「お前近寄るなや,当たってきたんだろうがや,お前が」「当たってきたや,俺が当てられたんじゃがや,今,」

と繰り返し,石川が当たってくることを言っているのである(第1審判決書添付別紙1)。

また,石川も,「よう言わい,そこやか当ててないって」と,「そこ」は当てていないとして,別の場所が当たったことを認めている声が録音されている(第1審判決書添付別紙1)。

従って,石川が被告人を押していたことは明らかである。

B トラブルの時間が3分21秒であり,本宮との言い争いがないこ  

 と

石川らの供述は,トラブルの時間が長いとする。

石川の供述は,10分から15分である(第1審判決書13頁)。

伊藤の供述は,10分ちょっとである(第1審判決書18頁)。

そして,その長い時間があったことを説明するために,石川らの供述は本宮との言い争いなどを加えている。

石川の供述は,「職員室に入ると,被告人が付いて来るので,本宮教諭が止めに入ったところ,被告人と本宮教諭との言い争いが始まった。そこで,私は,職員室の玄関側の出入り口から廊下に出たが,被告人は本宮教諭との言い争いに続いて伊藤教諭との言い争いになった。」である(第1審判決書12頁)。

伊藤の供述は,「石川教諭は,職員室に入って行ったが,被告人がその後をついて行き,職員室の入り口辺りまで来て何かを叫びながら戸口にある掲示板を叩いた。そして,被告人は,廊下で振り返って本宮教諭に対して『関るな』とか,『あんたまでが。』というような言葉を興奮しながら叫んでいた。」である(第1審判決書18頁)。

本宮の供述は,「石川教諭は,らちが明かないという感じで職員室の方へ帰っていき,被告人が追いかけるように職員室の入り口まで行って,入り口のところで怒鳴って壁をバンバン手で叩き,私にも『おまえもじゃ,おまえもわしにかかわるな』というようなことを言ってきた。」である(第1審判決書21頁)。

しかし,現場録音の音声データは,3分21秒であり,石川らの供述する本宮との言い争いや,掲示板あるいは壁をバンバン叩いた音が録音されていない。

    以上のとおり,現場録音データから,石川らの供述は信用できない。

  

6 石川らの供述内容自体からも,供述が信用できないこと

  @ 肘打ちの態勢に関する供述が異なること

    石川の供述は,「被告人の右肩が少しさがったと思った時に,左ほほに激しい衝撃を受け」である(原判決書2頁)。これをもとに,原判決は,「見えない位置からの不意の攻撃であり,よろしくない。」とする(原判決書6頁)。

 他方で,伊藤の供述は,「被告人の右肘が肩上まで上がり,その肘を右斜め上から左斜め下に振り下ろすように動かして」である(第1審判決書17頁)。

本宮の供述は,「石川教諭の身体越しに被告人の右手の肘が上に上がるのが見えたと思ったら,それを振り下ろし」である。

伊藤や本宮は,右肘を肩の上に上げていると言っているが,右肘を肩の上に上げれば,肩が下がるのではなく,肩もあがるのである。

従って,石川と伊藤や本宮の供述が一致していない。

なお,もし肘を肩の上に上げれば,肘は正面にいる石川の顔の前に位置することになり,「見えない位置からの不意の攻撃」にはならず,この点でも原判決は矛盾している。

A 石川の姿勢が異なり,被告人との距離が変遷すること

    石川の供述は,殴られたと思ったときは,「まっすぐだったと思います。」,顔もまっすぐ上げていた,背筋も伸ばしていたである(石川尋問調書780項,781項,784項,別紙2,3の写真)。

    そして,石川の供述は,警察の捜査段階では60センチの距離であったが,法廷では50センチの距離になった(石川尋問調書741,744項)。

    伊藤の供述は,石川の上体が前かがみであり(伊藤尋問調書別紙6の写真),距離が48センチである(伊藤尋問調書137項)。

本宮の供述は,28センチである(本宮尋問調書125項)。

    このように,石川の供述では距離が60センチから50センチへ短くなり,本宮にいたっては28センチになった。また,石川の姿勢も,石川が背筋をまっすぐであったと供述するのに,上体が前かがみとなっている。これらの供述は,肘打ちで肘が石川の左ほほに当たるようになるために供述を変更しているのであり,石川らの供述は信用できない。

B 本宮との言い争いや,掲示板や壁を叩くことがないこと

石川らの供述は,前述のとおり,トラブルの時間が長かったと供述するために,被告人と本宮との言い争いがあったとする。

しかし,その被告人と本宮とが言い争った場所については,石川は職員室の中であると供述し,他方で,伊藤と本宮は職員室の入り口の廊下であると供述しており,一致していない。

もし仮に,本当に体験したことであれば,石川にとっては,職員室の中まで被告人がついてきて本宮が止めに入ったということであるから,場所を間違える余地のないことであるし,他方で,本宮にとっても,自分が被告人から直接言われた場所であるから,これも間違える余地のないところである。

このような極めて簡単で,かつ,肝心な点である言い争いの場所が違うのであるから,石川らの供述は,信用できない。

 

7 石川が反対側を押さえていたこと

原判決でも,自宅録音の音声データについては,その信用性を認めている(原判決書4頁)。その自宅録音の音声データには,現場において,石川が反対側を押さえて,ここはどうしてくれるんと言っていたということが記録されている(第1審判決書添付別紙2,3頁)。

従って,被告人の左肘の内側が石川の右側に当たったことはあるが,石川の左ほほへは当たっていない。

なお,自宅録音の音声データでは,確かに,原判決が指摘する,「肘が多分,顔に当たった。」,「当たったんやないんよ,当てたんよ。」,「肘打ちは見えんのよ。距離にして分からんのよ。」,「手加減しとるし。」と述べていることが録音されている(原判決書4頁,第1審判決書添付別紙2)。

しかし,他方で,次のようなことを述べている。

あのでかい体で押してくるんよ,ほんで,押してくる な,当たるな

     もう,押してくるけんな,あの体でばーっと押してくるけん。こっちはもう。

奴らは押して押して押して来たんよ。そういう作戦でほんで,相談室へ相談室へって,振りほどこうとしたらなんか当たって

つまり,被告人は,石川が押してきたので,それを振りほどこうとして当たったと述べているのである。この説明は,本件の当日から一環していることである。

 

 8 石川らに虚偽の供述をする理由があること

本件のトラブルは,学校内での問題であるにもかかわらず,幹部教師らの一人である高橋恭敬が校長がいるにもかかわらず,許可なく警察に通報した。

被告人は,休職のあとで平成19年4月に土居中学校に転勤したが,体調が完全に回復しておらず,特に体温調整ができない状況であった。幹部教師らは被告人を学校から排除しようと嫌がらせをしてきたが,高橋は,被告人に対して,「いね,いね,病気のやつは」と発言していた者である。

そこで,幹部教師らにとっては,警察への通報の必要性が問題になった。本件では,校長の許可を得ずに通報されていることからも,校長の許可を得なかったことについての正当性も要求された。

そのために,警察に通報させざるをえなかったという特別な事情を作り出すことにしたのである。その理由付けとして,校長が現場にいて録音データに校長の声が録音されているにもかかわらず,校長が現場にいなかったとする虚偽の事故報告書を教育委員会に提出し,被告人が長時間にわたり暴れていたとか,誰も止められなかった,校長ら管理職の許可を得る間がなかった,それほどのやむを得ない事情があったということを作り出し,具体的には,言い争いの時間が10分という長時間であるとか,本宮との言い争いなどがあったと付け加える虚偽の供述をしたのである。

 

9 以上のとおり,石川周治,伊藤貴仁及び本宮久忠の供述する暴行の態様は,客観的な事実(左ほほの状態や現場録音の音声データ)に整合せず,供述内容自体も一致しておらず,石川らの供述は信用できない。

また,石川の左ほほの状態は,すでに述べたとおりであり(第4項),左ほほに肘打ちを受けたとは言えない。

現場に臨場した警察官も,「その他(もめごと)」,「事件性なし」であり,「被害者に怪我はなく」である。

従って,被告人が右肘を肩の上に上げ,上から下に振り下ろして,石川の左ほほに当てたことはないので,傷害罪は無罪である。

 

10 被告人の供述の信用性

原判決は,「被告人は,原審公判において,被害者に壁まで押され,後ろがないので避けようと考え,両手を顔の前方にあげて,両手で壁を作るようにして両手を払ったときに,左肘の内側が被害者に当たった旨供述するが,上記の信用できる被害者供述等によれば,被告人が被害者に壁まで押されたとの事実は認められないなど,その信用性には疑問があり,信用できない。」とする(原判決書3頁)。

   また,量刑の理由においてであるが,「止めに入った被害者に対して肘打ちをしたものであり,被害者に落ち度はない。」とする(原判決書6頁)。

   ここでも,原判決が被告人の供述の信用性を否定するのは,「信用できる被害者供述」だけであって,そのこと自体から誤っている。

そもそも,石川は,いわゆる「ランチルーム」のメンバーであり,病気の被告人を学校からの排除しようと嫌がらせをしてきた幹部教師らの一人であって,石川が「止めに入った」のではない。

   石川は,被告人に対して「相談室に入ろ。入ろ。」と保健室を出て左向かいにある相談室に入るように強要し,その体躯を利用して執拗に押し込もうとしていたのである。録音された石川と被告人のやり取りには,石川に押されていることが明白に現れている。

   また,石川が手をハの字に広げて,被告人に対峙した姿をみれば,石川が被告人を追い込もうとした意思は明白である。被告人が「押すな,当たるな」と叫んでいることからも,相談室の方へ押されている移動していることは明らかである。石川は,本人の供述によれば,身長174センチメートル,体重100キログラム,ウエスト100センチメートルの巨漢である。両手をハの字に広げて被告人に迫る姿は,まさに被告人を両脇から逃さないように追い立てる姿そのものである。

   このように,被告人は,石川に押されて壁際まできたのであり,そのために石川の右側に逃れようとして,両手で壁を作るように動かしたに過ぎない。被告人の供述は,信用できる。

 

11 よって,傷害罪が無罪であって,原判決には判決に及ぼす重大な事実誤認が存在するので,刑事訴訟法第411条第3号によって破棄を求める。

 

第3 名誉毀損に対する量刑が懲役刑を選択したことは甚だしく不当であるから,刑事訴訟法第411条第2号によって破棄を求める。

 1 原判決の量刑が甚だしく不当であること

   原判決は,「1件の傷害及び3件の名誉毀損の事案である。」として(原判決書6頁),第1審判決の懲役4月,2年間の執行猶予を破棄して,懲役1年6月,4年間の執行猶予とした。

   しかし,傷害罪は無罪であるから,上記の事案自体の捉え方が間違っている。

   また,名誉毀損に関しては,原判決は,「被告人は,犯行を認める一方で,上記書込みは生徒を守るためである等を供述するが,被告人の書込みの内容は単に被害者らへの嫌がらせであって,到底生徒を守るためになされたものとはいえず」とか,「弁護人は,本件各犯行に関して,その勤務する中学校の教育方針や,被告人の病状を考慮しない体制を論難するが,・・・,第2の名誉毀損に関する書き込みの内容は,そもそも事実無根であり,教育方針や被告人の病状への体制とは無関係であるから,被告人に有利に考慮することはできない。」として(原判決書7頁),本件の土居中学校の状況を一切取り上げようとしない。

しかし,被告人がなぜ,名誉毀損の書込みをしたのか,どのような事情があって,本件書込みをするに至ったのかについては,量刑において考慮するべきことであり,これを一切否定する原判決は間違っている。

そして,本件名誉毀損の背景(幹部教師らによる同和教育や,被告人に対する嫌がらせ),本件に至る経緯(平成20年1月16日の「傷害事件」とされた汚名,出勤の禁止,インターネットのサイトへの妨害),被告人の目的を考慮すれば,本件の名誉毀損について被告人の教職を奪う結果となる懲役刑を選択したことは甚だしく不当である。

 

2 本件の書込みは,土居中学校の同和教育に関する掲示板サイトにおけることであること

本件の名誉毀損の書込みは,土居中学校の同和教育に関するインターネットの掲示板サイトにおけることであって,他の一般的なサイトではない。

  このサイトでは,土居中学校における同和教育について幹部教師らの問題が掲示されて,議論されていた。そのために,被告人は,このサイトを守るために(生徒を守るためとはこのことを指している),本件書込みに至ったのである。

従って,この点は,本件において極めて重要なことであるので,サイトの書込みの内容について,以下詳論する(乙9の添付資料)。

なお,本件の名誉毀損の書込みがなされた「☆土居中☆現役&卒業生・・・集まりんしゃい!」は,被告人が開設したものではない。

@ 2007(平成19)年3月15日の28番

「1年前に卒業したけど,あの学校は何もかも糞だった。特に先公。ノイローゼみたいなキチガイばかり。同和問題学習とか言う意味不明な授業のせいで,まともな授業数が減った。学力向上強化学校に選ばれる程の低レベルな中学だった。汚点がありすぎて書ききれない。母校として誇れない。というより認めたくない。」

A 同年4月26日の58番

「そんな同和問題学習が嫌ならいじめのひどい学校へ転校すればいい。もっと自分がお世話になってる・なってた学校なんやきん愚痴ばっかかかずにえー所語れば」

B 同年8月7日の70番

「何か同和教育に対して否定的なこと書いていた人がいたけど,同和教育があってこその土居中だと思う。・・・」

C 同年11月8日の85番

「明日も全校人権集会ですねぇ〜」

D 同年12月8日の110番

「・・・土居中は同和問題に肯定的な人間,否定的な人間にきっぱり分かれる。もうこれは仕方ないこと。」

E 同日の112番

「卒業生じゃけど,同和問題学習で変われた人なんて周りにおらんかったよ。『正直に自分の気持ちを言え!!』って先生らは言よったけど,本音なんて言うたりしたら連れ出して説教されるし,矛盾しとった。」

F 同月9日の114番

「土居中は9割ぐらい『偽善』だと思う。」

G 同月20日の118番

「っつか先生達は差別するな言うけど実際職員室では障害ある先生がはせられるってゆー(笑)土居中生なら誰のことか分かると思う。」

H 同日の119番

「それ知っとる![仲間づくりせ]とか言っときながら自分達が一番出来てないもんね!!矛盾しすぎだろ!」

I 2008(平成20)年1月21日の136番

「私は,土居中学校は決して良い学校ではないと思います。同和問題学習が悪いことだと思いませんが,すこしやりすぎではないでしょうか??毎年,生徒集会で提案される『文化祭の復活』は,必ず職員会で却下されます。文化祭が却下されるのは『時間がないから』という事ですが,年4回,2時間ずつの全校人権集会を他校並みに減らせば簡単に時間はつくれると思います。総合学習・道徳・学活の時間のほとんど全て同和問題に充てるのもやりすぎだと。人権集会や参観日で発表する内容は,必ず先生にチェックされます。これは・・おかしいのではないでしょうか。言いたいことが言える状況ではないのです。体育祭盛り上がりましたし,クラスが団結して何事にも取り組めるところは,好きでした。ですが,正直二度と行きたくはないです。」

J 同月25日の139番

「同和教育は大切な事だと思いますが・・。同和教育の面でも,生活の面でも,おかしな事が多すぎるような気がします。保健室とか,休める場所ではないと思います。追い返されているひとがほとんどでした。先生だって,生徒の区別がひどすぎでした。気に入った生徒には優しくしたり,同じ事をしても気に入っている生徒とそうでない生徒では,あからさまに対応が違う・・。軽い暴力なら平気でやっていたと思います。」

K 同年2月10日の144番

「先生が,ヤクザみたいに凄むのやめて欲しい。ところで今日の参観日,身元調査がテーマだったけど,身元調査しなきゃいいって問題じゃないような気がするんだけど?」

L 同月11日の145番

「同和教育について一言言いたいと思う。去年の全校研究授業。全国から色々な人が集まった。その時自分は批判的な文面を考えて発表しようとした。しかしその原稿を出したところ先生に差し止められた。自分の意見を言おうとしたが駄目という事だったらしい。どうしてもそれだけが納得できなかった。『自分の意見を言え!』と言うのは結局のところ『指導方針にのっとった』自分の意見を言えということらしい。これは即ち言論統制と同じことだと思う。『人権を大切にする』のが土居中のモットーとはいう。だが少しでもずれた意見は駄目だというのもまた事実だ。自分としては釈然としない三年間だった。」

M 同日の146番

「私も去年の全校研究授業は腑に落ちませんでした。私のクラスの担任は『評判よかった』とか『お褒めの言葉を頂いた』とか自慢げに言ってましたが,私は紙に書いた発表用の自分の意見を何度も何度も直されました。『このときこう思ったはずだ』『どうしてもっと自分の気持ちを言わないんだ』とか。『生徒に本当の意見を言わせないで,何が[褒められた]だよ』と虚しい気分になりました。」

N 同月12日の147番

「差別は絶対ダメだと思うし,同和教育は大事だと思うけど,土居中の同和教育はにせものっぽい。もうやる気なくなるよ。」

O 同月28日の155番

「全校集会が『風邪の人が多い』という理由で小規模??になったけど・・誰か本当の理由知っている人いませんか??」

P 同日の156番

「隠蔽工作?生徒の反発恐れててんだろ〜よ」

Q 同日の157番

「漏れは,その理由も知っとるで。生徒の反発恐れとるんよ。今まで自分らがやってきた悪事が,隠しきれんようになってきたんで,『人権集会で何ばり言われたらいかん』っつうわけよ。きのうの朝,校長,教頭,教務で急遽『今は人権集会やったらまずい』『かぜがはやっとるいう理由で中止しましょう』とっこうなったのよ」

R 同年3月1日の163番

「土居中の先生は本間頭いっとる!!先生とか生徒には煙草吸うなとかいいよるけど,外で吸っては前の川にポイ捨て言いよることとやりよることが違うマジ市ね特に変態教師伊藤!!!自分の娘しか見ない,あとは本宮,人権きちがいのきょうけい←きちがい坊主!!まぁ俺らが現役だったころはきょうけい大嫌いだったけど,頭よわいし人権集会とかやってもいみないだたのうわべだけの中学校。」

S 同日の164番

「たしかに。人権集会は伊藤とかしずちゃんのいじめよる実態を告発されるのをとめようとして辞めざるをえませんでした。」

21 同日の166番

「実は,これを書いたのが今日が初めてです。今まで書かれてきた内容を見てすごくはらが立ちます。それに,言いたい事があれば,本人に,直接言えばいい。影でこそこそするのはずるい。」

22 同日の167番

「本人に直接言ったところでどうなるのでしょう。『内申書に影響する』みたいな事を遠回しに言って・・脅されるだけではないのですか?では先生達が真実を話していると,思うのですか?影でこそこそしているのは・・先生達の方でしょう。私の場合は,土居中の先生がここを見ていると思うから,言っているんです。書き込みもしているのではないでしょうか。私だって,直接言えたらどんなにいいかと思っています。先生達の個人名を出すのが良いことだとも思いません。ですが土居中でそんな事をすれば・・『指導』されてしまうでしょう。私はそんな土居中学校のやり方を嫌と言うほど知っています。」

23 同日の172番

「多分先生達これ見てるな。早く土居中対応急がないと大変な事になると思うな〜まぁ無理矢理揉み消したりしたら余計に無駄だけどね正直に話せばいいんじゃないかな・・」

以上のとおり,このサイトの書込みの内容は,土居中学校における同和問題教育についての書込みであって,生徒から真面目な意見が出されているものである。

 

3 サイトに対する妨害行為

ところが,このサイトに対して,平成20年3月9日の235番において下品な書き込みがなされ,同月12日の297番でも意味のない多数の文字を繰り返し書き込まれている。ここには明らかにサイトを妨害しようとする意図が示されている。

そのために,被告人は,同月12日の306番において,「勤務時間中に,こういう事をしては処分ものです。管理責任者に,書き込んだのが誰なのか,調べ出していただく必要があります。」と書き込みをしたが,これが最初の書き込である。

また,同日の316番では,「IPアドレスが全部同じやんけ。一人芝居やめな。土居の話題の先セーから頼まれた,川北の〇〇やろが」として,サイトの妨害を止めるように書き込んでいる。

被告人の目的は,土居中学校の同和教育などについて生徒から意見が出されているサイトへの妨害を止めさせることである。

 

4 被告人に対する誹謗

このサイトに対して,荒らしによる妨害が行われるようになったが,意味のないことを繰り返すものだけではなくて,直接,被告人や星田教諭を誹謗するものが含まれていた。

  平成20年3月23日には「誰かと思えば,『A教諭』って以前は授業もせずに給料だけ取ってたアイツのことだろ」と書き込みがある。

  同年4月13日には「日本一も大嘘つき『☆田』やある政党の組織とつるんで,毎日パソコンにかじりついてこんなことやっとるんでないん」「あの凍りつくようなマジックと,キモイつくり笑顔とスパイダーマンTKで〇南中でも人気者になってや」と書き込みがある。その後も,被告人を誹謗する書き込みが続いた。

   そして,本件の書込みは,これらの書込みがあった後の5月になってからのことである。

 

5 被告人に対する幹部教師らによる嫌がらせ

土居中学校においては,幹部教師らによる同和教育の問題があるだけではなく,被告人自身についても,幹部教師らから嫌がらせを受けてきた。

被告人が休職のあとで,平成19年4月に土居中学校に転勤となって復帰し,被告人が生徒らに対してうつ病であることを話したことから,幹部教師らの嫌がらせが始まった。

心の健康問題により休業した労働者が職場復帰する際には,再発の予防が行われ,円滑な職場適応のための配慮がなされなければならない。管理監督者は,部下の心の健康問題にいち早く気づき,対応することがきわめて重要である。このため,管理監督者は,心の健康づくりについての正しい知識と労働者に対する正しい対処方法を身につけることが必要である(平成14年12月自殺防止対策有識者懇談会の自殺予防に向けての提言)。

しかるに,幹部教師らは,被告人が生徒らに病気のことを話したことや体温調整で苦しんでいることについて,「最初の時に変なことを言ったから,いろいろ言われるんだ。それと,毛布の件も,さっきもそうじゃけど,職員室で自立訓練しよるのは,気味悪いから慎め」,「給食指導の時,学年の廊下をうろうろすると,子どもが不安がったり,怖がったりするから困る」といった(弁14,3枚目)。

そして,幹部教師らは,授業以外は病気休暇にして学校に来ないようにとか,数学のテスト範囲を連絡しないなど,学校での情報を与えようとしなかった(第1審の供述調書399項)。幹部教師らは,被告人を生徒らから引き離す為,学校に出勤しなくてもよい,授業以外は病休欠勤しろという扱いをしてきた。

そこで,被告人は,教育委員会に対し,「土居中学校におけるパワーハラスメント」と題する書面など(弁13,14)を提出して,救済を求めた(第1審被告人供述調書39項)。

しかし,幹部教師らの言動が,あたかも,被告人の体調を慮ってという形式を取るために,教育委員会も是正の対応をしっかりと取ることができなかった。教育委員会の河村次長は,「土居中学校におけるパワーハラスメント」と題する書面のような文書が提出される前にも,口頭での依頼があったにもかかわらず,具体的な対応については「十分覚えていない」というのである(河村次長調書24,28項)。

その中で,高橋による「いね,いね,病気のやつは」という,あからさまな嫌がらせを受ける状態までなっていた。

また,石川は否定するが(石川尋問調書488,491項),図書コーナーにいる被告人に対し,「先生,そこを動くなよ,不審者見回りをしよるけん」と言ったり,被告人が生徒と話していると,石川が間に割って入り,生徒と切り離そうとしてきたこともある。

   被告人は,これらの幹部教師らのいじめに耐えかね,平成19年12月の時点では,平成20年4月の人事異動で転勤希望をし,それが認められる感触があった(控訴審の被告人供述調書6項)。

   本件の平成20年1月16日のトラブルがなければ,そのまま転勤していたのである。

 

6 本件に至る直接のきっかけとなったトラブルは,幹部教師らの男子生徒に対する指導上の問題であること

   本件の名誉毀損に至ることになった直接のきっかけは,平成20年1月16日のことである。

この日,保健室において,被告人は,男子生徒から,「おまえサボっとるんだろうと見られて」,幹部教師らに無理やり教室に行くように言われることが辛く,追いつめられる恐怖心で,幹部教師らの名前を言う時には,1学期に見られなかったひどい吃音症状があり,3年生の1月であるにもかかわらず転校を決意したことを聞いた(第1審被告人供述調書85頁,男子生徒の話し方も録音されている)。

男子生徒の幹部教師らに対する思いは,男子生徒の「自分の体験」という作文に「この先生からのいじめはつらいです。集団でくるからです。」などと書かれている(弁15)。

そこへ,転校前日の,その男子生徒に対し,これまでと同じように教室へ行くようにと,伊藤や石川が生徒を連れ出しにきたのである。被告人がそれを止めさせようとして,本件のトラブルになったのである。

ところが,本件のトラブルの原因について,教育委員会の河村次長は,「当時,そこまでその生徒に関してのトラブルの問題,どこに問題があったのか,そこまでは分析しておりません。」と証言した(河村次長調書115項)。

また,校長も,保健室にいた生徒のことが問題であるかとの質問に対し,「そのことで,別に言い合いになったり,そういうトラブルになったとは,直接の原因とは思っていません。分かりません。」と証言した(村上校長調書123項)。それでは直接の原因はなにかとの質問に対し,「僕はわかりません。」というのである(同124項)。ただし,「私が聞いているのは,入試のこととかもあって,できるだけ教室に上げたいというふうな親御さんからの話があって,声かけをして,上げていくようにしているけど,無理にとかいうような形は,僕は聞いていません。」とする(同128項)。校長は入試のことを指摘するが,その入試を受ける3年生の1月に転校したのであるから,真実は明らかである。

なお,本件の後で,平成21年4月になってようやく,「ランチルーム」のメンバーである幹部教師らの教頭,石川,伊藤,本宮,高橋が一斉に転勤となったが(篠崎尋問調書5項,石川尋問調書4項,伊藤尋問調書4項,本宮尋問調書6項,高橋尋問調書4項),この事実からも,男子生徒に対する指導上の問題などがあったことは明らかである。

 

7 平成20年1月16日以後,被告人が土居中学校や教育委員会から排除されてきたこと

被告人は,平成20年1月16日に警察に通報されたこと自体がショックであった。

そのうえに,翌日の1月17日の教育委員会での話し合いにおいても,校長から,「生徒と話をするときには学校長の許可を得てから話をせえ」と言われた(妻の尋問調書20項,河村次長調書106項)。

さらには,事件が解決しないと学校に出てきたらいけないという話がなされた(河村次長調書107項)。

   そのため,被告人は,病院に行き(妻の尋問調書20,21項),病院では,「一切そういった学校関係者と関わることを主人に禁じ」ることになった(同41項)。

それでも,一時は,学校側と話し合いができる可能性が生じたこともある。

平成20年1月24日ころ,男子生徒の祖母が,学校に出向き,被告人が休んでいることを知ったことから,学校の責任を追及してきた。そのことがあって,同月25日には,幹部教師らの態度が変化し,石川と被告人の「二人を会わせて,謝罪し合わせて,この事件を終わりにしましょう」ということになったのである(妻尋問調書38項,河村次長調書122項)。

ところが,この話し合いができずに,学校側は一方的に被告人が暴力を振るったということを,保護者や生徒たちへ説明し始めたのである。

同年2月になって,教育委員会や校長と話し合った。教育委員会は,被告人が土居中学校に復帰できるように話を進めていたが(河村次長調書134項),校長は,「河村は石川さんを殴ったと。その音を聞いた先生もいるから,大変なことをしていると。そのことを生徒にも説明しているから,学校にきてもらったら,やっぱり困るというようなお話だったように記憶しています。」ということになった(妻尋問調書109項)。

このように被告人は,平成19年4月から幹部教師らによって学校内で排除されてきたが,平成20年1月16日には「傷害事件」として警察に通報され,同月17日以降は,学校に出勤することも禁じられ,被告人が一方的に暴力を振るったという説明がなされる事態に追い込まれていたのである。

 

8 以上のとおり,本件においては,土居中学校での幹部教師らによる同和教育や生徒指導の問題,休職のあと復帰してきた被告人に対して心の健康に配慮した対策が講じるのではなくて,逆に被告人に対する嫌がらせが行われたことが深く関わっているのである。

本件の名誉毀損は,土居中学校の学校生徒や卒業生が土居中学校の同和問題の意見を交わしているサイトの妨害する行為を止めさせる為に,被告人がこのサイトに書込みをしたのである。

   

9 その他の事情 

また,被告人については,その他にも,量刑について重要な一般的な事情がある。

@ 被告人の体調

   被告人は,うつ病に罹患し,休職を経て,土居中学校に転勤してきた。被告人は,勤務しながら,体調を改善し,徐々に仕事に復帰するように医師から言われていたが,幹部教師らは,病気で苦しむ被告人を生徒や保護者から遠ざけようとした。それでも,被告人は少しずつ勤務ができるようになっていた。

   ところが,平成20年1月16日のトラブルと,それを口実にした「傷害事件」として警察への通報があり,被告人の心労はさらに追い込まれた。体調がどんどん悪くなり,薬も増えていった(妻尋問調書100,101項)主治医は,学校に関ることを禁止していた。しかし他方で,学校においては,被告人の一方的な「暴力行為」と説明されていたが,これに対しても,是正するための直接の対応ができなかった。

その後,被告人は平成20年4月に三島南中学校に転勤となったが,出勤することができず,5月からは休職になっていた(第1審の被告人供述調書142項)。

「傷害事件」や「暴力行為」とされたことで,被告人の体調が悪化していたことが本件の書込みに大きく影響している。

A 被告人の反省

   被告人は,名誉毀損の書込みについて大変な過ちをしたと深く反省をしている(第1審被告人供述調書145項)。

被告人は,「これだけ私も身に染みたし,周りの本当に家族や周りの人たちに心配をかけましたんで,絶対に繰り返してはいけないと,もうつくづく思っております」(同548項),「やっぱり非は私にあると,こういう騒動を巻き起こした非は私にあると思います」と反省している(同550項)。

   また,被告人の妻も,トラブルの翌日である1月17日に,石川が診断書を取っていると聞いたので,治療費を支払うために学校へ謝罪に行っている(妻尋問調書26項)。

B 被告人が真面目な教師であること

   本件に至った直接のトラブルは,被告人が男子生徒のことを真剣に考えて,男子生徒を守るために行動したことである。そのため,男子生徒の祖母から感謝されている。祖母は生徒とともに被告人の家に来て感謝の言葉を述べている。

   また,被告人は授業に熱心に取り組んできた。被告人を誹謗する書込みでも,「スパイダーマンTK」のことを取り上げているし,授業の準備も熱心にしてきた(妻尋問調書97項)。

被告人が真面目で熱心な教師であることは,伊藤でさえも認めている(伊藤尋問調書282項)。

C 被告人に前科,前歴はない。

D 懲役刑による不利益

   懲役刑が選択されると,公務員を失職することになり,被告人は教員を続けることができない。また,退職手当等も支給されず,経済面でも大変厳しい処分を受ける。

 

10 以上のとおり,名誉毀損の書込みは許されることではないが,本件は,被告人が土居中学校において,幹部教師らから心の健康に配慮した対策が講じられず,逆に嫌がらせを受けて排除されてきたこと,教育委員会に救済を求めたが,教育委員会は適切な対応をしなかったこと,平成20年1月16日のトラブルが転校を余儀なくされた3年生の男子生徒を守るために行ったことであり,肘打ちがないのに「傷害事件」として警察に通報されたこと,さらに,同月17日以降学校への出勤を禁止されたこと,平成20年2月以降は,被告人が暴力を振るったと学校側が一方的に説明していたこと,土居中学校の同和教育を議論するサイトが妨害されたこと,被告人についての誹謗がなされたこと,被告人が平成20年4月に転勤となったが,体調が回復せず,薬の量が増えていたことによるものである。

被告人は,自宅で療養し,唯一の精神的な支えともいえるサイトの議論を見守っていたが,サイトを妨害する行為が繰り返されたので,妨害を止めさせたかったのである。

被告人は,これまで真面目に,熱心に教育に取り組んできた。平成19年4月以降でも幹部教師らの嫌がらせに苦しみながらも,一生懸命に授業を行ってきた。本件に至る直接のきっかけとなったトラブルの3年生の男子生徒の祖母も,被告人に感謝している。

被告人は,書込みをしたことを真剣に反省している。

ただ,被告人が認め難いのは,肘打ちをしていないにもかかわらず,「傷害事件」として告訴されて,傷害罪の汚名を受けていることだけである。

被告人と妻は,起訴の前に,検察官に呼び出され,「殴ったと認めたら,略式起訴にして罰金刑で済むから,殴ったと認めたらどうかと言われました。あなたは最初からそれを認めていないので,認めなければ,裁判になって,懲戒免職になるかもしれませんよと。1週間以内に相談をして,私のほうに電話を返してくださいということを言われました。」,「私の気持ちは少し揺れました。すぐそのあとに実は教育委員会に迷惑をかけることになるかもしれないと思ったので,教育長さんのほうに連絡をしました。こういうふうに言われたんだけれどもという。そのとき教育長さんのほうから,やっていないことは認めるなと,はっきりおっしゃっていただいたので,それで気持ちは固まりました。」(妻尋問調書120項,122項)。傷害罪の汚名がなければ,すでに決着していたことである。

懲役刑を選択することは,被告人の公務員資格を奪い,教育現場から永久的に排除することになる。被告人は,本件の裁判を通じて,真剣に省みて,これからは「だれから見ても見本であるように,安心して,あの先生だったらというふうに言うてもらえるようにという,そういうふうにせないかんと思っています。」と教育への熱意をさらに高めている(第1審被告人供述調書550項)。

   従って,名誉毀損の書込みについての量刑が懲役1年6月,執行猶予4年間であることは甚だしく不当であるから,破棄するべきである

以上

 

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