土居中事件
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平成23年(う)第142号 被告人 河村 卓哉 2011(平成23)年11月10日 検察官の控訴趣意書に対する反論書 高松高等裁判所第1部 御中 主任弁護人弁護士 水 口 晃 弁護人弁護士 臼 井 滿 弁護人弁護士 常 田 学
検察官の控訴趣意書について,次のとおり,反論する。
第1 傷害事件について 1 男子生徒の転校の理由が真実であること 検察官は,「入れ替わり立ち替わり毎日保健室に来ては教室に引っ張っていこうとされると言ういじめを受けているからであるなどと,転校する理由を説明した。」と正しく判断している(控訴趣意書4頁)。 ところが,検察官は,「本件犯行は,被告人が,保健室へ休みに来た男子生徒から,篠崎教頭をはじめとする土居中学校の幹部教諭のいじめが原因で転校するに至ったと聞き,事の真偽を確認することもなく,一方的にそれを真実と受け取った上」として,真実かどうかが不明であるかのように主張する(控訴趣意書6頁)。 しかし,男子生徒とは3年生の3学期,受験を目前にした時期に転校しているのであって,男子生徒が説明する,幹部教諭によるいじめを受けたという転校の理由は真実である。また,男子生徒が転校の前日に学校の授業において作文を書いているが(原審弁護人請求証拠番号15番),ここでも幹部教諭によるいじめを指摘している。 従って,男子生徒の転校の理由は幹部教諭らによるいじめであり,「事の真偽を確認することもなく,一方的にそれを真実と受け取った上,」ということは間違いである。 2 本宮との言い争いがないこと 検察官は,「職員室の入口付近の廊下等において,本宮教諭に対して,壁をばんばん叩きながら怒鳴りつけたり,他の教諭に引き離されても,執ように繰り返し伊藤教諭と怒鳴り合いをしたりしていた。」とする(控訴趣意書5頁)。 しかし,石川は,職員室の中で,本宮と言い合いをしたというのであり(石川調書195項以下),石川の証言とは整合していない。 また,検察官は,被告人が「壁をばんばん叩きながら怒鳴りつけた」と主張するが,現場録音には壁をばんばん叩いている音が録音されていない。 従って,被告人が,本宮に対して,壁をばんばん叩きながら怒鳴りつけたことはない。また,石川の証言のように,職員室内で怒鳴りつけたこともない。 3 他の教諭から引き離されたのは伊藤であること 検察官は,「他の教諭に引き離されても,執ように繰り返し伊藤教諭と怒鳴り合いをしたりしていた。」とする(控訴趣意書5頁)。 しかし,他の教諭に引き離されたのは,伊藤であり(石川調書221項),被告人ではない。 4 検察官の主張自体が矛盾していること 検察官は,「一方的に興奮して伊藤教諭や本宮教諭を怒鳴りつけた上,自らの感情の赴くままに石川教諭に対する暴行行為に及んでいること」としたり(控訴趣意書6頁),逆に,「被告人は,本件犯行直後も,なおも自らの興奮の赴くまま,本宮教諭や伊藤教諭を執ようにどなりつけているばかりか」と主張するが(控訴趣意書7頁),明らかに事実経過の前後について矛盾した主張をしている。 5 石川が男子生徒をいじめた幹部教諭の一人であり,身体全体を使って押し込んできたこと 検察官は,「被告人を挑発するような言動は一切とっておらず」と主張するが(控訴趣意書7頁),この主張には証拠の引用がない。 石川は,ランチルームに集まる幹部教諭らの仲間である(石川調書509項以下)。保健室にいる男子生徒に対して,入れ替わり立ち替わり引っ張っていこうとした幹部教諭の一人である(控訴審において立証予定)。 また,石川は,被告人に対し,身体全体を使って,両手をハの字に広げて相談室に追い込もうとしてきた。現場録音では,被告人が,触るな,当たるなと発言をしている(原判決書別紙1)。 6 石川の左目の状態は本件と影響しないこと 検察官は,「約2年6か月が経過した平成22年7月7日の第4回公判における証人尋問当時においても,左目が充血してずっと圧迫感を感じる状態が続き,定期的に眼科に通院しているのであって(石川教諭の証人尋問調書・4−33ないし35),本件の結果やその影響は極めて重大であり」と主張する(控訴趣意書7頁)。 しかし,安藤医師のカルテには,1月16日や1月21日のカルテには目のことについての記載がなく,2月5日のカルテには「以前より,眼科にかかっている。検診で緑内障のけがある,その後楠島眼科では投薬を受けた」との記載がある(甲43)。 そこで,目のことについて,最初の左顔面打撲とか,頚部捻挫と何か関係があるのかと質問したが,安藤は,「特にはこれもないんじゃないかなと思います。」と証言している(安藤調書149項)。 従って,安藤医師さえも関係を否定しているのであるから,「本件の結果やその影響」とはいえない。 7 空手について @ 検察官は,「3年の修業をして」と主張するが(控訴趣意書7頁),あえて,その時期を明らかにしていない。いつの時期かを明らかにされたい。 なお,被告人は,やめて20年たちますと供述している(被告人調書155項)。 A 検察官は,「空手による攻撃が凶器を使用した暴行に匹敵することを考えると」と主張するが(控訴趣意書7頁),その主張には,どのような空手の経歴を有する者かなどの限定が一切ない。 これでは,一旦空手の道場にかよった者であれば,すべてが「凶器を使用した暴行に匹敵する」という主張になる。もし,その意味で使用しているということであれば,極めて恣意的な主張である。 B また,検察官は,「空手による攻撃」と主張しているが,被告人は,肘を高く上げて,そこから振り下ろすような形の肘打ちの稽古したことはないと供述している(被告人調書156項,253項)。 本件において検察官によって主張されている,肘を高く上げて,そこから振り下ろすようなことが「空手による攻撃」としてあるのかは,立証されていない。 C 検察官は,「被告人は敢えて周囲の人には分かりにくい技である肘打ちを加えているのであるから,卑劣かつ巧妙でもあり,極めて悪質な犯行と言わねばならない。」と主張する(控訴趣意書7頁)。 しかし,検察官は,伊藤らの証言をもとに,「被告人は,右肘を曲げた状態で右腕肘部分を肩上まで上げ,正対している石川教諭の左顔面に向けて,自己の右斜め上から左斜め下に勢いよく振り下ろし」たと主張するのであるから(控訴趣意書5頁),このような主張される行為であれば,周囲の人に分かりにくいことはない。 また,石川らの証言によれば,石川の首が右の方向にねじれた(石川調書120項),石川の顔が右下にぶれた(伊藤調書115項),石川の首が右にひねるようになった(本宮調書97項)という証言をしているのであるから,これらの証言によっても,周囲にいた者に見えたことになっている。 石川らの証言はいずれも真実ではないが,検察官の主張は,石川らの証言を前提としながらも,石川らの証言と矛盾するものになっている。 8 和解ができなかったことは被告人側の責任ではないこと @ 検察官は,「その後,本件について,石川教諭が被告人の謝罪を望んで話し合いによる解決を図ろうとしたにもかかわらず、石川教諭に謝罪することがなかったために,結局,本件は,石川教諭が警察に被害を届け出て刑事事件になったものである。」と主張する(控訴趣意書8頁)。 あたかも,被告人側の一方的な態度によって話し合い解決ができなかったかのような主張である。 しかし,平成20年1月ころには,男子生徒の祖母が学校に行き,被告人が学校へ出勤できないことを知ると,学校側の責任を厳しく問い質した(河村の妻の証言調書46項)。そのことで,学校側も被告人と石川の二人を合わせて謝罪し合せて,本件を終わりにすることになっていた(河村の妻の調書38項) 河村次長も,1月には,「やっぱり問題が発生したことを考えると,やはり双方で意見の食い違いがあったために起こったことなんであると思い,双方で謝罪ということを考えたわけなんです。」と証言しており(河村次長の調書128項),被告人側だけの謝罪とは考えていない。 A ところで,石川の証言では,「話し合いで解決しようと思っていました」とか(石川調書323項),「謝罪を望んでいました」(石川調書324項)と証言するだけであり,具体的な和解案については,「お互いの意見が食い違っていて,うまくいきませんでした」というものである(石川調書339項)。 また,和解の話については,石川は,学校から和解の話がなく(石川調書665項),教育委員会から,どうしてもらいたいと聞かれたことがある(石川調書667項),それに対して,まず謝罪をしてもらうこと,「そのときもう既にいろいろチラシ等とかで,この事件はでっち上げであるといった内容のことを広められてましたので,謝罪の文書をしかるべきところへ出してほしい,」ということである(石川調書668項)。 この石川の証言は,チラシが配布された時期以後の話である。そして,チラシが配布された以後の和解の話については,和解の話をしてきた教育委員会の者の証言はなされていない。 教育委員会が仲介したときの石川の和解の内容は控訴審で立証する。 第2 名誉毀損事件について 1 平成20年4月の異動が被告人の希望であること 検察官は,平成20年4月の三島南中学校への異動について,「この異動は土居中学校の篠崎教頭らの幹部教諭の画策によって土居中学校から追い出されたものと思い込み」と主張する(控訴趣意書9頁)。 しかし,検察官は証拠の引用をしていない。 被告人は,平成19年12月の段階で転勤の希望を出しており(この点は,控訴審で立証予定),この異動について幹部教諭らの画策とは思っていない。 検察官は,この平成20年4月の異動のことや被告人個人への誹謗中傷のことによって,インターネットのサイトの書き込みの動機付けとしているが,これらによるものではない。被告人は,土居中学校の同和教育などについて書き込みがあるインターネットのサイトへの妨害を止めさせたかっただけである。 2 被告人個人に対する誹謗中傷に対する恨みや憤りではないこと @ 検察官の主張 検察官は,インターネットのサイトに「自分のことを誹謗中傷する書き込みを発見して,土居中学校の幹部教諭が書き込んだものであると誤信し,更に土居中学校の幹部教諭に対する恨みと憤りを募らせた。」とする(控訴趣意書9,10頁)。 しかし,被告人は,自分に対する誹謗中傷の恨みや憤りではなくて,土居中学校の同和教育などについてのインターネットのサイトに対する妨害を止めさせようとしたのである。 A インターネットのサイトが土居中学校の同和教育などに関することであること インターネットのサイトにおいては,平成20年3月までは書き込みの件数が多くないが,土居中学校の同和教育のことが書き込まれていた。 この点は重要なことであるので,サイトの書き込みの内容について,以下詳論する。 ア 2007(平成19)年3月15日の28番では「1年前に卒業したけど,あの学校は何もかも糞だった。特に先公。ノイローゼみたいなキチガイばかり。同和問題学習とか言う意味不明な授業のせいで,まともな授業数が減った。学力向上強化学校に選ばれる程の低レベルな中学だった。汚点がありすぎて書ききれない。母校として誇れない。というより認めたくない。」とある。 これに対して,2007年4月26日の58番では「そんな同和問題学習が嫌ならいじめのひどい学校へ転校すればいい。もっと自分がお世話になってる・なってた学校なんやきん愚痴ばっかかかずにえー所語れば」とする書き込みもある。 イ 2007年8月7日の70番では「何か同和教育に対して否定的なこと書いていた人がいたけど,同和教育があってこその土居中だと思う。・・・」との書き込みもある。 ウ 2007年11月8日の85番では「明日も全校人権集会ですねぇ〜」,2007年12月8日の110番では「・・・土居中は同和問題に肯定的な人間,否定的な人間にきっぱり分かれる。もうこれは仕方ないこと。」,同日の112番では「卒業生じゃけど,同和問題学習で変われた人なんて周りにおらんかったよ。『正直に自分の気持ちを言え!!』って先生らは言よったけど,本音なんて言うたりしたら連れ出して説教されるし,矛盾しとった。」,2007年12月9日の114番では「土居中は9割ぐらい『偽善』だと思う。」,2007年12月20日の118番では「っつか先生達は差別するな言うけど実際職員室では障害ある先生がはせられるってゆー(笑)土居中生なら誰のことか分かると思う。」,同日の119番では「それ知っとる![仲間づくりせ]とか言っときながら自分達が一番出来てないもんね!!矛盾しすぎだろ!」との書き込みがある。 エ 2008(平成20)年1月21日の136番で,「私は,土居中学校は決して良い学校ではないと思います。同和問題学習が悪いことだと思いませんが,すこしやりすぎではないでしょうか??毎年,生徒集会で提案される『文化祭の復活』は,必ず職員会で却下されます。文化祭が却下されるのは『時間がないから』という事ですが,年4回,2時間ずつの全校人権集会を他校並みに減らせば簡単に時間はつくれると思います。総合学習・道徳・学活の時間のほとんど全て同和問題に充てるのもやりすぎだと。人権集会や参観日で発表する内容は,必ず先生にチェックされます。これは・・おかしいのではないでしょうか。言いたいことが言える状況ではないのです。体育祭盛り上がりましたし,クラスが団結して何事にも取り組めるところは,好きでした。ですが,正直二度と行きたくはないです。」と書き込みがある。 オ 1月25日の139番では「同和教育は大切な事だと思いますが・・。同和教育の面でも,生活の面でも,おかしな事が多すぎるような気がします。保健室とか,休める場所ではないと思います。追い返されているひとがほとんどでした。先生だって,生徒の区別がひどすぎでした。気に入った生徒には優しくしたり,同じ事をしても気に入っている生徒とそうでない生徒では,あからさまに対応が違う・・。軽い暴力なら平気でやっていたと思います。」と書き込みがある。 カ 2月10日の144番では「先生が,ヤクザみたいに凄むのやめて欲しい。ところで今日の参観日,身元調査がテーマだったけど,身元調査しなきゃいいって問題じゃないような気がするんだけど?」との書き込みがある。 キ 2月11日の145番では「同和教育について一言言いたいと思う。去年の全校研究授業。全国から色々な人が集まった。その時自分は批判的な文面を考えて発表しようとした。しかしその原稿を出したところ先生に差し止められた。自分の意見を言おうとしたが駄目という事だったらしい。どうしてもそれだけが納得できなかった。『自分の意見を言え!』と言うのは結局のところ『指導方針にのっとった』自分の意見を言えということらしい。これは即ち言論統制と同じことだと思う。『人権を大切にする』のが土居中のモットーとはいう。だが少しでもずれた意見は駄目だというのもまた事実だ。自分としては釈然としない三年間だった。」との書き込みがある。 同日の146番では「私も去年の全校研究授業は腑に落ちませんでした。私のクラスの担任は『評判よかった』とか『お褒めの言葉を頂いた』とか自慢げに言ってましたが,私は紙に書いた発表用の自分の意見を何度も何度も直されました。『このときこう思ったはずだ』『どうしてもっと自分の気持ちを言わないんだ』とか。『生徒に本当の意見を言わせないで,何が[褒められた]だよ』と虚しい気分になりました。」との書き込みがある。 ク 2月12日の147番では「差別は絶対ダメだと思うし,同和教育は大事だと思うけど,土居中の同和教育はにせものっぽい。もうやる気なくなるよ。」との書き込みがある。 ケ 2月28日の155番では「全校集会が『風邪の人が多い』という理由で小規模??になったけど・・誰か本当の理由知っている人いませんか??」との書き込みがある。 同日の156番では「隠蔽工作?生徒の反発恐れててんだろ〜よ」との書き込みがある。 同日の157番では「漏れは,その理由も知っとるで。生徒の反発恐れとるんよ。今まで自分らがやってきた悪事が,隠しきれんようになってきたんで,『人権集会で何ばり言われたらいかん』っつうわけよ。きのうの朝,校長,教頭,教務で急遽『今は人権集会やったらまずい』『かぜがはやっとるいう理由で中止しましょう』とっこうなったのよ」との書き込みがある。 コ 同年3月1日の163番では「土居中の先生は本間頭いっとる!!先生とか生徒には煙草吸うなとかいいよるけど,外で吸っては前の川にポイ捨て言いよることとやりよることが違うマジ市ね特に変態教師伊藤!!!自分の娘しか見ない,あとは本宮,人権きちがいのきょうけい←きちがい坊主!!まぁ俺らが現役だったころはきょうけい大嫌いだったけど,頭よわいし人権集会とかやってもいみないだたのうわべだけの中学校。」との書き込みがある。 同日の164番では「たしかに。人権集会は伊藤とかしずちゃんのいじめよる実態を告発されるのをとめようとして辞めざるをえませんでした。」との書き込みがある。 同日の166番では「実は,これを書いたのが今日が初めてです。今まで書かれてきた内容を見てすごくはらが立ちます。それに,言いたい事があれば,本人に,直接言えばいい。影でこそこそするのはずるい。」との書き込みがある。 同日の167番では「本人に直接言ったところでどうなるのでしょう。『内申書に影響する』みたいな事を遠回しに言って・・脅されるだけではないのですか?では先生達が真実を話していると,思うのですか?影でこそこそしているのは・・先生達の方でしょう。私の場合は,土居中の先生がここを見ていると思うから,言っているんです。書き込みもしているのではないでしょうか。私だって,直接言えたらどんなにいいかと思っています。先生達の個人名を出すのが良いことだとも思いません。ですが土居中でそんな事をすれば・・『指導』されてしまうでしょう。私はそんな土居中学校のやり方を嫌と言うほど知っています。」との書き込みがある。 同日の172番では「多分先生達これ見てるな。早く土居中対応急がないと大変な事になると思うな〜まぁ無理矢理揉み消したりしたら余計に無駄だけどね正直に話せばいいんじゃないかな・・」との書き込みがある。 このようにインターネットのサイトの書き込みの内容は,土居中学校における同和問題教育についての書き込みであって,生徒から真面目な意見が出されている。 B サイトに対する妨害が平成20年3月始めからであること そして,このようなインターネットのサイトに対して,平成20年3月9日の235番において下品な書き込みがなされているのであり,3月12日の297番でも意味のない多数の文字を繰り返し書き込まれているので,ここには明らかにサイトを妨害しようとする意図が示されている。 C 被告人の初めての書き込みの内容 そこで,被告人は,3月12日の306番において,「勤務時間中に,こういう事をしては処分ものです。管理責任者に,書き込んだのが誰なのか,調べ出していただく必要があります。」と書き込みをしたが,これが最初の書き込である。また,同日の316番では,「IPアドレスが全部同じやんけ。一人芝居やめな。土居の話題の先セーから頼まれた,川北の〇〇やろが」として,サイトの妨害を止めるように書き込んでいる。 このように,被告人の目的は,土居中学校の同和教育などについて生徒から意見が出されているサイトへの妨害を止めさせるためである。 3 被告人の誤信や邪推について @ 検察官は,「本件犯行は,前記(2)・アのとおり,被告人の誤信や邪推に基づくものであり」と主張する(控訴趣意書12頁)。 確かに,インターネットのサイトを妨害しているものが幹部教諭らであるかどうかは,捜査機関である警察等の強制捜査でなければ判明できないことである。 警察等はサイトの全部の書き込みを調査しているはずであるが,本件においては,幹部教諭らの書き込みではないことの資料は提出されていない。 A インターネットのサイトの書き込みの内容は,前述したとおりであるが,土居中学校の同和問題学習などについての生徒からの意見である。これを快く思わない者としては幹部教諭らしか考えられない。 インターネットのサイトの書き込みの中にも,土居中学校の幹部教諭らが書き込んでいると書かれている。 例えば,平成20年3月2日の173番では,「僕は,3年間同和問題学習をして,すごくとよかったと思います。169は,どこに不満があるのですか。」との書き込みがあるが,これに対して,同日の175番では,「先生書いてるな多分わしには解る」との書き込みがある。 B 被告人もまた,サイトの内容からして,土居中の幹部教諭らが妨害していると考えたのである。 そこで,3月12日の306番の「勤務時間中に,こういう事をしては処分ものです。管理責任者に,書き込んだのが誰なのか,調べ出していただく必要があります。」とか,同日の316番では,「IPアドレスが全部同じやんけ。一人芝居やめな。土居の話題の先セーから頼まれた,川北の〇〇やろが」として,幹部教諭らのことを具体的に指摘しているのである。 C 従って,サイトの書き込みが土居中学校の同和問題学習についての意見であるから,被告人の考えが全く根拠のない「誤信」や「邪推」であるとは言い切れない。 4 被告人のサイトへの書き込みが妨害を止めさせる目的であること @ 検察官の主張 検察官は,平成20年5月3日の1226番や5月23日の1930番については,コピペ荒らしを止めさせることが含まれていると判断できるが,伊藤や石川に関する書き込みについてはその目的が説明できないと主張する(控訴趣意書11頁)。 しかし,なぜ,「これでは説明できないことが明らかである」と言えるのかについては,検察官は具体的な理由を主張しない。 以下の妨害の回数や経過をみれば,被告人がサイトへの妨害を止めさせるために書き込んだことは明らかである。 A 多数回に及ぶ妨害 インターネットのサイトに対する妨害の方法としてコピペ荒らしなどが多数回に行われた。この点も重要なことであるから,以下,妨害の書き込み回数について述べる。 4月14日から4月20日までの1週間には,630番,631番,635番,642番から645番,649番,652番,653番,655番,656番,659番,660番,662番から664番,666番から671番,673番から677番,684番から693番,716番,717番,719番から723番,725番から735番,741番から745番,747番,748番,753番から755番,758番,764番,765番,768番,769番,773番から775番,777番,778番,785番,786番,791番,792番,794番から801番,803番から805番,810番から816番,820番から827番,829番から831番,834番,837番,839番,851番,863番から856番,860番から862番,869番,873番,886番と続いた。 その次の4月21日から4月27日までの1週間についても,913番から920番,921番,945番,946番,955番から957番,976番から978番,981番,982番,984番,985番,988番,991番から993番,1001番から1004番,1014番から1020番,1023番,1030番から1032番,1043番から1045番,1047番から1050番,1052番,1056番と続いた。 そして,次の4月28日から5月4日までの1週間についても,1061番から1064番,1075番から1084番,1088番から1091番,1095番から1097番,1107番,1108番,1110番,1115番から1117番,1124番,1125番,1186番から1188番,1190番,1192番から1199番,1202番から1205番,1208番から1211番,1223番から1225番,1254番から1262番,1266番から1268番と続いた。 次の5月5日から5月11日までの1週間の間についても,1280番から1304番,1306番,1307番,1313番から1315番,1317番,1318番,1327番,1329番から1330番,1339番から1343番,1345番,1347番から1354番,1369番から1373番,1378番,1381番,1392番から1401番,1408番,1460番から1467番,1477番,1478番,1488番から1492番,1499番,1500番,1515番,1517番,1518番,1520番から1522番と続いた。 次の5月12日から5月18日までの1週間の間についても,1532番から1538番,1546番から1549番,1553番から1558番,1568番,1569番,1578番から1580番,1615番から1618番,1647番から1662番,1757番から1762番,1766番から1771番と続いた。 次の5月19日から5月24日までの間については,1813番から1816番,1843番から1881番,1884番から1900番,1915番から1927番,1937番,1939番,1956番から1978番,1988番から2000番と続いた。 このサイトは,2000番で終了したが,以上のような多数回に及ぶ妨害があったのである。 B 被告人の目的が妨害を止めさせることであること 被告人は,5月23日の1928番から1937番まで一連の書き込みをした。その中に,本件の公訴事実も含まれている。 被告人の書き込みは,5月24日の1984番の「コピペ荒らしを繰り返しているあなたが,土居中幹部または関係者,または同和団体関係者であるならば,コピペ荒らしを続けなさい。それ以外の人は,コピペ荒らしをやめてね。もう一度言うよ。コピペ荒らしを繰り返しているあなたが,土居中幹部または関係者,または同和団体関係者であるならば,コピペ荒らしを続けなさい。」の書き込みが最後である。 このように,被告人がサイトに書き込みをしたのは,サイトに対する妨害を止めさせる目的であることは明らかである。 5 本件の書き込みに至った事情 本件の書き込みは,平成20年5月5日,6日,23日のことである。 前述したように,土居中学校の同和教育問題について生徒らの意見が書き込まれていたサイトに対しては妨害が続いていた。 また,被告人に対する誹謗中傷も行われていた。4月13日の562番の「河〇卓〇も」,同日の566番の「管理人って,河×なん?」,同日の567番の「そりゃそうやわあ。あいつは土居中に怨み持っとるやろ。土居中は自分のワガママを認めてくれんかったから。今も土居中を悪者にせんかったら自分の生きていく道がないんやろ。毎日毎日ご苦労なこっちゃ。日本一の大嘘つき『☆田』やある政党の組合とつるんで,毎日パソコンにかじりついてこんなことやっとるでないん?。それが大方の見方や。在校生もあんなヤツに踊らされとったら,知らん間にアイツらに利用されてアホらしいで。俺らは,かわいそうなヤツやけん授業中話あわせてやりよったけどな。まぁ,あの凍付くようなマジックと,キモイつくり笑顔とスパイダーマンTKで〇南中でも人気者になってや」,同日の585番の「河×のクソじじぃ!!,ボケ,アホ」,同日の587番の「河☆のボケ!!,アホ!」,同日の588番の「ごめん,ごめん,河☆がボケ!!じゃなくて☆田がボケ!!だった(笑)へへ〜」,同日の597番の「あはははははは,河☆☆☆☆☆☆☆☆☆へへへへへへへ うざー」と書きこまれている。 また,4月14日の609番の「河☆,うぜーうぜーうぜーうぜーうぜー」同日の621番の「そうだ,そうだ,はよ出てこいやー,河×のボケー」,同日の623番の「お前のことじゃ!!,はよ,でてこりや!!,河×のボケー」,同日の628番の「河〇 うぜぇーうぜぇーうぜぇ−うぜぇ−」と書き込まれている。 平成20年5月頃とは,1月以降出勤ができず,被告人の体調が悪化していた。被告人の妻も,パソコンから被告人を引き離そうとしても,被告人の体調のために完全に止めさせることもできなかった時期である(被告人の妻の調書106項)。 平成20年1月16日の出来事は,保健室にいた男子生徒を守るための行動である。ところが,これを暴力事件として警察に通報され,学校の保護者らに対しても,被告人の暴行事件として一方的に説明されていたのである。 このような状況の中に被告人がおかれていたことから,本件の書き込みをしないという正常な判断ができなかったのである。 6 書き込みの内容は勝手に想像したものではないこと 検察官は,「被告人は,篠崎教頭を筆頭として,伊藤教諭や石川教諭に対する根深い憤りや恨みの念から,根拠のない事実や学校内で秘密録音した石川教諭らの会話内容から勝手に想像した事実を文面に盛り込んで」投稿したと主張する(控訴趣意書11頁)。 しかし,投稿の内容は,石川らのランチルームなどでの発言を元にしたものであり,「勝手に想像した事実を文面に盛り込ん」だものではない。 また,石川らがランチルームでこのような会話をしていることは,捜査官もパソコンの差押さえによって音声データを確認して知っていることであり,被告人の取調べにおいても捜査官側から指摘されていた(この点は控訴審で立証予定)。 7 和解に関する篠崎教頭の提案内容が真実ではないこと 検察官は,「被告人は,篠崎教頭から,『集まりんしゃい』に投稿した文章を全部消去してくれれば告訴しないと申し入れられたのに,これに応じなかったため,やむなく篠崎教頭が被告人を告訴したものである。」と主張する(控訴趣意書13頁)。 検察官が引用する篠崎教頭の証言は,教育長が中に入っていただいて,仲介をするということなので,私も大きなことにはしたくなかったので,ネットを全部消してくれるんだったら,もうこのことは水に流して,告訴はしないということだったんですが,それに応じてもらえなかったので,告訴をしました。」と証言するものである(篠崎調書140項)。 しかし,河村の妻の証言によれば,野村教育長は篠崎教頭らの4つの条件を説明しただけである(河村の妻の調書115項)。条件は,殴ったことを認めて謝罪すること,その殴ったということをインターネット上で公開すること,ビラにして配ることである(河村の妻の調書116項)。 野村教育長が中にはいった和解において,幹部教諭らがどんな提案をしたのかは,控訴審において立証する。 8 生徒,保護者,教育委員会に対する影響について @ 検察官は,被告人が教師という聖職についていながら,「同僚である複数の教師に罵声を浴びせ,更に危険な暴行に及び重大な結果まで生じさせているのであって,この一事だけでも,土居中学校の生徒や保護者らが感じたであろう不安や衝撃,教育委員会の職員等教育関係者に与えた衝撃等は極めて大であったろうことは想像に難くない。」と主張する(控訴趣意書17頁)。 A しかし,生徒や保護者らが知りたいのは,なぜ,警察官が学校現場に来るようになったのかという理由である。それも,被告人と石川教諭らとの間に暴行があったか否かということよりも,保健室にいた男子生徒に対して,どのような指導がなされていたのかである。 ところが,教育委員会は,保健室にいた男子生徒の問題を分析していないというのである(河村次長調書115項)。 村上校長も,被告人と石川のトラブルについて直接の原因は「僕は分かりません」と証言するのである(村上校長調書21項)。 このように,教育委員会や土居中学校の校長は,保健室に登校し,幹部教諭らのいじめを受けて3年生の3学期に転校を余儀なくされた男子生徒の問題という,本件の一番大事な問題について正面から向き合うことさえも出来ないのである。 検察官は,「教育委員会の職員等教育関係者に与えた衝撃等」として,教育委員会のことを上げているが,河村次長は,「今回のことは,単に河村卓哉先生が暴行したというんじゃなくて,双方に原因があるから,お互いに謝罪しましょうということを勧めたわけですよね」という質問に,「結論からいったら,そうなっております。」(河村次長調書129項)とするのであり,双方に原因があるという捉え方である。 B 本件の書き込みについても,検察官は,「これらの誹謗中傷文章を見た土居中学校の生徒や保護者らに大きな不安感や土居中学校の教師に対する不信感を抱かせたことも想像に難くない」(控訴趣意書17頁)と主張する。 しかし,インターネットのサイトについては,前述しているとおり,土居中学校における同和問題学習などについての生徒の不満の書き込みである。保護者らにとっては,その内容についての説明を求めているのである。ところが,土居中学校や教育委員会は,その対応をしていないのである。この点は,控訴審において立証する。 9 判決後の状況について 検察官は,「判決後の状況」として,被告人が石川らに謝罪をしていないことを主張する(控訴趣意書14頁以下)。 しかし,原判決は,石川などの幹部教諭らの証言をそのまま採用し,被告人が肘打ちしたことを認定したのである。しかも,石川らの証言とは,現場録音データについても一部削除しているとか,もっと時間が長かったなどと明らかに事実に反することまで証言したのである。現場録音データに削除などの編集した痕跡がないことは控訴審で立証する。 被告人は,幹部教諭らの事実に反する証言によって,肘打ちをしたと言われているのであるから,現在の状況をもって「判決後の状況」として被告人を責めることは妥当ではない。 控訴審において,肘打ちが無実であること,石川らの証言が虚偽であることが明らかにされたときの対応について,初めて「判決後の状況」としてその責任が問われるべきである。 10 同種事案がないこと 検察官は,同種事案に対する量刑の実情に照らしても,原判決の量刑は軽きに失して不当であると主張する(控訴趣意書19頁)。 しかし,本件と同種事案はない。本件は,極めて特殊な事案である。 被告人は,平成19年4月に土居中学校に転勤になった。被告人は自分の体調を説明したが,幹部教諭らはそれを快く思わなかった。幹部教諭らは,授業以外は病休にするように指示をするなど,被告人を学校から排除しようとした。被告人は,テストの範囲など教科の情報を与えられず,学内で疎外され,体調の悪化に苦しんできた。被告人は,教育委員会に対して救済の依頼をしたが,幹部教諭らの対応は是正されなかった(河村の妻の調書59項以下,被告人調書15項以下)。 そして,平成20年1月16日,被告人は,保健室に登校している男子生徒が幹部教諭らのいじめを受け,転校をすることになったことを聞かされた。そこへ,いじめをしてきた幹部教諭らである伊藤や石川が男子生徒を引っ張り出しにきた。 そこで,被告人は男子生徒を守る為に,引っ張り出そうとする幹部教諭らの行為を止めさようと廊下に出た。 しかし,石川教諭は身体全体をつかって両手をハの字に広げて相談室へ追い込んできた。被告人は石川教諭に押されて後ろの壁際まで追い込まれた。 そこで,石川教諭の右側へ避けるために,迫ってくる石川教諭の顔の前で,両腕の肘を曲げて左から右に払って,「これ以上来るな」と,石川教諭との間に「壁」をつくろうとした。その左肘の内側がたままた石川教諭の顎,あるいは,ほっぺ,首のどこかに1回あたった(被告人調書100項以下)。 ところが,これを「警察じゃ」と直ちに警察に通報されたのである(星田調書222項)。 保健室にいた男子生徒の祖母は,被告人に感謝している(河村の妻の調書46項)。そのため,教育委員会でも双方が謝罪して終わるという話があった。 にもかかわらず,被告人のみが学校への出勤を禁止された(河村次長調書107項)。そして,被告人の体調が悪化し,病休のままであり,出勤ができない状況に追い込まれてきた。 さらに,被告人が出勤しないままで,土居中学校では,生徒や保護者に対して,被告人が事件を起こしたと一方的な説明がなされた(河村の妻の調書111項,河村次長調書138項)。 しかも,暴行の程度についても,石川や伊藤らによれば,被告人が右肘を肩の上に上げて,右斜め上から左斜め下に勢いよく振り下ろし,石川の首が右の方向にねじれたとか,石川の顔が右下にぶれたなどを言われていた。 被告人の言い分は全く無視されて,幹部教諭らの言い分だけが一方的に繰り返されたのである。 そのような中で,2007(平成19)年1月29日に開設されていたインターネットのサイトである「☆土居中☆現役&卒業生・・・集まりんしゃい!」に土居中学校の同和教育などが書き込まれていたが,これに対する妨害が平成20年3月初めころから行われ始めた。 サイトには土居中学校の同和教育などが取り上げられているので,被告人は,インターネットのサイトを妨害しているのは幹部教諭らであると考えていた。被告人は,幹部教諭らに対して妨害を止めるように書き込んでいた。 被告人の体調が悪く,被告人の家族もパソコンから被告人を引き離すことができなかった。 被告人が妨害を止めるように書き込んでいたが,以後も,多数回の妨害が行われてきた。また,妨害とともに,被告人や星田教諭に対する誹謗中傷もなされていた。 そして,平成20年5月になって本件の名誉毀損の書き込みがなされたのであるから,本件と同種事案はないというべきである。 本件においては,これらの一連の経過を踏まえて量刑の判断をするべきである。 以上 |